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東京地方裁判所 平成9年(ワ)12191号 判決 2000年10月31日

原告

株式会社ツクダオリジナル

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

稲元富保

右補佐人弁理士

【B】

被告

株式会社ラナ

右代表者代表取締役

【C】

被告

【C】

右両名訴訟代理人弁護士

山崎正俊

右両名補佐人弁理士

【D】

主文

一  被告株式会社ラナは、別紙物件目録(二)ないし(八)記載の各商品の包装容器に別紙被告標章目録(一)ないし(五)記載の各標章を付したものを輸入し、販売し、引き渡し、販売若しくは引き渡しのために展示してはならない。

二  被告株式会社ラナは、原告に対し、金五七〇万円及びこれに対する平成九年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告の被告株式会社ラナに対するその余の請求及び被告【C】に対する請求を棄却する。

四  訴訟費用は、原告に生じた費用の二分の一と被告株式会社ラナに生じた費用を同被告の負担とし、原告に生じたその余の費用及び被告【C】に生じた費用を原告の負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

一  主文第一項と同旨。

二  被告株式会社ラナは、別紙物件目録(二)ないし(八)記載の各商品を輸入し、販売し、引き渡し、販売若しくは引き渡しのために展示してはならない。

三  被告らは、原告に対し、連帯して金一一四〇万円及びこれに対する平成九年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が被告株式会社ラナ(以下「被告会社」という。)に対し、被告会社が輸入し国内で販売する別紙物件目録(二)ないし(八)記載の回転式立体組合せ玩具(以下、「被告商品」と総称することがある。)は、原告が製造販売し、その形態が原告の商品であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されている別紙物件目録(一)記載の回転式立体組合せ玩具(以下「原告商品」という。)と形態が類似し、原告商品と混同を生じさせており、被告会社による被告商品の輸入、販売は不正競争防止法二条一項一号に該当する不正競争行為であるとして、右行為の差止め及び損害賠償を求め、また、被告会社が被告商品に付した別紙被告標章目録(一)ないし(五)記載の標章(以下、「被告標章」と総称することがある。)が、おもちゃ等を指定商品とする原告の登録商標と類似しており、商標権侵害に当たるとして、当該標章の使用の差止め及び損害賠償を求め、併せて、被告会社の代表者である被告【C】(以下「被告【C】」という。)に対し、被告【C】はその職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったとして、商法二六六条の三第一項に基づき、被告会社と連帯して損害賠償金を支払うことを求めた事案である。

一  当事者間に争いのない事実

1  当事者

原告は、玩具の製造、販売等を業とする株式会社であり、被告会社は、玩具の販売等を業とする株式会社であり、被告【C】は、被告会社の代表者である。

2  原告の有する商標権

原告は、次の商標権を有する(以下、合わせて「本件商標権」といい、その商標を「本件登録商標」という。個別にいうときは、左の番号に合わせて「商標権①」、「登録商標①」のように記載する。)。

① 登録番号第二一三二五五三号の商標権

登録年月日 平成元年四月二八日

商品区分 第二四類(平成三年政令第二九九号による改正前の商標法施行令第一条別表による区分。以下、同様である。)

指定商品 おもちゃ、その他本類に属する商品

商標 別紙原告商標目録(一)記載のとおり。

② 登録番号第八八三二〇八号の商標権

登録年月日 昭和四五年一二月一一日

商品区分 第二四類

指定商品 おもちゃ、人形、娯楽用具、運動具、釣り具、楽器、演奏補助品、蓄音機(電気蓄音機を除く)レコード、これらの部品及び附属品

商標 別紙原告商標目録(二)記載のとおり。

3  被告会社による標章の使用等

(一) 被告会社は、平成六年九月ころから、別紙物件目録(二)(三)記載の各商品(以下、それぞれ「イ号商品」「ロ号商品」という。)の包装容器に、別紙被告標章目録(一)記載の標章(以下「イ号標章」という。)を付して、販売していた(現在もイ号標章を使用しているかについては、争いがある。)。

(二) 被告会社は、平成八年一二月、別紙物件目録(四)記載の商品(以下「ハ号商品」という。)の包装容器に、イ号標章を付して、販売していた(販売を開始した時期がいつか、現在もイ号標章を使用しているかについては、争いがある。)。

(三) 被告会社は、平成七年一月、別紙物件目録(五)記載の商品(以下「ニ号商品」という。)の包装容器に、別紙被告標章目録(二)記載の標章(以下「ロ号標章」という。)を付して、販売していた(販売を開始した時期がいつか、現在もロ号標章を使用しているかについては、争いがある。)。

(四) 被告会社は、平成六年一二月、別紙物件目録(六)記載の商品(以下「ホ号商品」という。)の包装容器に、別紙被告標章目録(三)記載の標章(以下「ハ号標章」という。)を付して、販売していた(販売を開始した時期がいつか、現在もハ号標章を使用しているかについては、争いがある。)。

(五) 被告会社は、平成九年一月ころから、別紙物件目録(七)記載の商品(以下「ヘ号商品」という。)の包装容器に、別紙被告標章目録(四)記載の標章(以下「ニ号標章」という。)を付して、販売していた(現在もニ号標章を使用しているかについては、争いがある。)。

(六) 被告会社は、平成九年二月、別紙物件目録(八)記載の商品(以下「ト号商品」という。)の包装容器に、別紙被告標章目録(五)記載の標章(以下「ホ号標章」という。)を付して、販売していた(販売を開始した時期がいつか、現在もホ号標章を使用しているかについては、争いがある。)。

4  本件登録商標と被告標章との類否

(一) イ号標章は「MAGIC CUBE」という文字標章であり、これは「マジックキューブ」の称呼を生じるものであるから、イ号標章は本件登録商標①と類似する。

(二) ロ号標章は「ミニマジックキューブ」という文字標章であり、「ミニ」の部分に自他商品識別力はなく、その要部は「マジックキューブ」の部分にあり、これは「マジックキューブ」の称呼を生じるものであるから、ロ号標章は本件登録商標①と類似する。

(三) ハ号標章は「MINIMAGICCUBE」という文字標章であり、「MINI」の部分に自他商品識別力はなく、その要部は「MAGICCUBE」の部分にあり、これは「マジックキューブ」の称呼を生じるものであるから、ハ号標章は本件登録商標①と類似する。

(四) ニ号標章は「CUBE」という文字標章であり、これは「キューブ」との称呼を生じるものであるから、ニ号標章は本件登録商標②と類似する。

(五) ホ号標章は「ミニキューブ」という文字標章であり、「ミニ」の部分に自他商品識別力はなく、その要部は「キューブ」の部分にあり、これは「キューブ」の称呼を生じるものであるから、ホ号標章は本件登録商標②と類似する。

5  本件商品の具体的構成態様

(一) 原告商品

原告商品は、約五・六センチメートル×五・六センチメートル×五・六センチメートルの正六面体であり、六面体の各面の九つのブロックは、それぞれ約一・八センチメートル×一・八センチメートルの正方形であり、六面体の各面には、各ブロックごとに、青色、黄色、赤色、橙色、白色、緑色の着色が施されている。

(二) 被告商品

(1) イ号商品及びヘ号商品は、約五・六センチメートル×五・六センチメートル×五・六センチメートルの正六面体であり、六面体の各面の九つのブロックは、それぞれ約一・八センチメートル×一・八センチメートルの正方形であり、六面体の一面には全体にウルトラマンの絵柄がその背景とともに描かれ、他の五面には各ブロックごとに、青色、緑青色、薄紫色、橙色、黄色の着色が施されるとともに、各ブロックごとにウルトラマン怪獣及びウルトラマンの絵柄が描かれている。

(2) ロ号商品は、約五・六センチメートル×五・六センチメートル×五・六センチメートルの正六面体であり、六面体の各面の九つのブロックは、それぞれ約一・八センチメートル×一・八センチメートルの正方形であり、六面体の一面には全体にマリンジャンボの絵柄がその背景とともに描かれ、他の五面には各ブロックごとに、淡青色、橙色、黄色、緑色、白色の着色が施されるとともに、各ブロックごとに海洋生物の絵柄又は「ANA」の文字が描かれている。

(3) ハ号商品は、約五・六センチメートル×五・六センチメートル×五・六センチメートルの正六面体であり、六面体の各面の九つのブロックは、それぞれ約一・八センチメートル×一・八センチメートルの正方形であり、六面体の一面には全体にウルトラマンティガの絵柄が黄色の背景色で描かれ、他の五面には各ブロックごとに、紫色、水色、桃色、淡緑色、橙色の着色が施されるとともに、各ブロックごとにウルトラマン怪獣及びウルトラマンティガの絵柄が描かれている。

(4) ニ号商品は、約三・〇センチメートル×三・〇センチメートル×三・〇センチメートルの正六面体であり、六面体の各面の九つのブロックは、それぞれ約一・〇センチメートル×一・〇センチメートルの正方形であり、六面体の各面には、各ブロックごとに、青紫色、黄色、淡赤色、橙色、白色、緑色の着色が施されている。

(5) ホ号商品は、約三・〇センチメートル×三・〇センチメートル×三・〇センチメートルの正六面体であり、六面体の各面の九つのブロックは、それぞれ約一・〇センチメートル×一・〇センチメートルの正方形であり、六面体の一面には全体にウルトラマンの絵柄がその背景とともに描かれ、他の五面には各ブロックごとに青色、緑青色、薄紫色、橙色、黄色の背景色が施されるとともに各ブロックごとにウルトラマン怪獣及びウルトラマンの絵柄が描かれている。

(6) ト号商品は、約三・〇センチメートル×三・〇センチメートル×三・〇センチメートルの正六面体であり、六面体の各面の九つのブロックは、それぞれ約一・〇センチメートル×一・〇センチメートルの正方形であり、六面体の一面には全体にウルトラマンティガの絵柄が黄色の背景色で描かれ、他の五面には各ブロックごとに水色、赤色、桃色、淡紫色、淡緑色の着色が施されるとともに各ブロックごとにウルトラマン怪獣及びウルトラマンティガの絵柄が描かれている。

6  原告商品と被告商品との商品形態の対比

(一) 原告商品とイ号商品・ヘ号商品

両者は、いずれも回転式立体組合わせ玩具であって、玩具としてみた場合に回転により各ブロックの移動が可能な立体色合わせパズルである点や、六面体の大きさ、各ブロックの大きさ、少なくとも五面は異なる色で着色されて他の面と区別できる点で同一である。両者の差異点は、原告商品は六面体の各面が異なる色の一色であるのに対し、イ号商品・ヘ号商品は六面体の一面にウルトラマンの絵柄が描かれ、他の五面に異なるウルトラマン怪獣及びウルトラマンの絵柄も描かれている点である。

(二) 原告商品とロ号商品

両者は、いずれも回転式立体組合わせ玩具であって、玩具としてみた場合に回転により各ブロックの移動が可能な立体色合わせパズルである点や、六面体の大きさ、各ブロックの大きさ、少なくとも五面は異なる色で着色されて他の面と区別できる点で同一である。両者の差異点は、原告商品は六面体の各面が異なる色の一色であるのに対し、ロ号商品は六面体の一面にマリンジャンボの絵柄が描かれ、他の五面に異なる海洋生物の絵柄や「ANA」の文字も描かれている点である。

(三) 原告商品とハ号商品

両者は、いずれも回転式立体組合わせ玩具であって、玩具としてみた場合に回転により各ブロックの移動が可能な立体色合わせパズルである点や、六面体の大きさ、各ブロックの大きさ、少なくとも五面は異なる色で着色されて他の面と区別できる点で同一である。両者の差異点は、原告商品は六面体の各面が異なる色の一色であるのに対し、ハ号商品は六面体の一面にウルトラマンティガやウルトラマン怪獣の絵柄も描かれている点である。

(四) 原告商品とニ号商品

両者は、いずれも回転式立体組合わせ玩具であって、玩具としてみた場合に回転により各ブロックの移動が可能な立体色合わせパズルである点や、六面体の各面が異なる色で着色されて他の面と区別できる点で同一である。両者の差異点は、原告商品の大きさに比べてニ号商品の大きさが約二分の一の縮尺である点である。

(五) 原告商品とホ号商品

両者は、いずれも回転式立体組合わせ玩具であって、玩具としてみた場合に回転により各ブロックの移動が可能な立体色合わせパズルである点や、六面体の各面が異なる色で着色されて他の面と区別できる点で同一である。両者の差異点は、原告商品の大きさに比べてホ号商品の大きさが約二分の一の縮尺である点や、原告商品は六面体の各面が異なる色の一色であるのに対し、ホ号商品は六面体の一面にウルトラマンの絵柄が描かれ、他の五面に異なるウルトラマン怪獣及びウルトラマンの絵柄も描かれている点である。

(六) 原告商品とト号商品

両者は、いずれも回転式立体組合わせ玩具であって、玩具としてみた場合に回転により各ブロックの移動が可能な立体色合わせパズルである点や、六面体の各面が異なる色で着色されて他の面と区別できる点で同一である。両者の差異点は、原告商品の大きさに比べてト号商品の大きさが約二分の一の縮尺である点や、原告商品は六面体の各面が異なる色の一色であるのに対し、ト号商品は六面体の一面にウルトラマンティガの絵柄が描かれ、他の五面に異なるウルトラマン怪獣及びウルトラマンティガの絵柄も描かれている点である。

7  被告会社の純利益額

被告会社が、被告商品の販売等によって得た純利益の金額は、五七〇万八四五三円である。

二  本件における争点

1  原告商品の形態は、原告の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているか。

2  被告商品は原告商品と類似し、原告商品と混同を生じさせているか。

3  被告標章の使用は、原告の本件商標権を侵害するか。

4  原告が被告会社に対して被告製品の販売等を許諾していたか。

5  被告【C】は、商法二六六条の三第一項に基づく責任を負うか。

6  原告の被った損害額。

三  争点についての当事者の主張

1  争点1(原告商品形態の周知商品等表示該当性)について

(原告の主張)

(一) 原告商品の形態の特徴

原告商品の形態は、六面体であり、その各面が九つのブロックに区分され、各面ごとに他の面と区別可能な外観を呈していることを基本的構成態様とし、六面体の大きさは、約五・六センチメートル×五・六センチメートル×五・六センチメートルの正六面体であり、六面体の各面の九つのブロックは、それぞれ約一・八センチメートル×一・八センチメートルの正方形であり、六面体の各面には、各ブロックごとに、青色、黄色、赤色、橙色、白色、緑色の着色が施されていることを具体的構成態様とするものである。こうした原告商品の基本的構成態様及び具体的構成態様は、それまでに販売されていた回転式立体組合せ玩具にはない特異な形態であり、原告の商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている。なお、六面体であり、各面が九つのブロックに区分された外観を有する回転式立体組合せ玩具自体は、昭和五一年当時に考案されていた(特開昭五三ー四六八三三号)が、現実に商品として販売されていたことはないし、原告商品が販売され周知性を獲得した当時において、「六面体であり、その各面が九つのブロックに区分された」形態の回転式組合せ玩具は、第三者からも販売されていなかった(当時、いわゆる海賊版に対しては、不正競争防止法による仮処分申請が認められていた。)。

なお、被告らは、原告商品の基本的構成態様のように、「六面体であり、その各面が九つのブロックに区分された」形態にすることは、回転式立体組合せ玩具の必須の技術的機能に由来するものであると主張するが、回転式立体組合せ玩具の形態としては、①「六面体であり、各面を四つのブロックに分割したもの」(乙二、四、七、甲一一の3~5)、②「六面体であり、うち四面を六つのブロック、残り二面を九つのブロックに分割したもの」(乙五)、③「六面体であり、各面を二五のブロックに分割したもの」(乙六)、④「六面体であり、各面を一六のブロックに分割したもの」(乙七)、⑤「球体であり、これを八つのブロックに分割したもの」(乙七)、⑥「球体であり、これを二六のブロックに分割したもの」(乙一四)などがあり、こうしたことからすれば、回転式立体組合せ玩具において、「六面体であり、各面が九つのブロックに区分された」形態にすることが、回転式立体組合せ玩具の必須の技術的機能に由来するものとはいえない。

また、被告らは、特許庁においても六面体を九ブロックに分割することが技術的必然性に基づきまたはありふれた形状ないし態様であると認めていると主張し、乙一二、一五を提出するが、乙一二は回転式立体組合せ玩具の一つである原告商品形態の意匠公報であり、乙一五は個々のブロックがばらばらになる組み立て色合わせパズル遊戯具の意匠公報であって、そもそもパズルの種類が異なっているのであるから、これらが登録されたとしても原告の主張と矛盾しない。

(二) 商品表示としての周知性

以下のとおり、原告商品の右形態は、商品表示として玩具業界及び一般消費者の間で周知となり、その周知性は現在でも維持されている。

(1) 原告商品は、昭和五五年七月二五日にその発売を開始し(甲一〇の1、2、一二の1、2)、発売開始以来、百貨店、専門店を問わず売れ、各地で品切れ店、品薄店が続出する(甲一二の2~10)など、同年一〇月末までに三五万個を販売し(甲一〇の4)、週刊玩具通信という業界紙における昭和五五年度の玩通おもちゃ大賞のヒット作品部門大賞に選ばれた(甲一二の11)。例えば、三越日本橋本店、東武百貨店池袋店、西武百貨店池袋店、京王百貨店新宿店、小田急百貨店町田店、おもちゃのポニー中野店、高島屋横浜店、林屋人形店川崎店、トイショップヨシオカヤ上福岡店、柏そごう、桃太郎宇都宮店、愛知豊明ドリームランド、アサヒトーイシーモール下関店、仙台サニーランド、札幌そごう、丸井今井札幌本店、おもちゃの専門店ほんま浦河店等で週間売上ベストセラー商品になり(甲一二の6~14)、同様に数多くの百貨店、専門店において今後の期待商品と位置付けられた(甲一二の6~14)。

(2) 昭和五五年一一月以降も原告商品はヒットを続け、相変わらずの品切れ、品薄状態が続き(甲一二の15~20)、昭和五五年九月以降ベストセラー商品として、年末年始商品の人気商品となり(甲一一の2、5、甲一三の1、3)、さらに、昭和五六年に至っても、各地の店舗において週間売上ベストセラー商品となり、同年三月ころまでに発売以来約一八〇万個を販売し(甲一一の4、一三の9)、同年六月ころまで原告商品のブームが続き(甲一三の3~23)、昭和五六年の年末商戦でも原告商品がクローズアップされていた(甲一一の6、8)。

(3) 原告は、原告商品の類似品に対しては不正競争防止法違反に基づく仮処分命令の申立てなどの法的措置を講じて対処し、昭和五五年一二月には東京地裁、名古屋地裁でそれぞれ仮処分決定がなされ(甲一一の4)、昭和五六年四月には大阪地裁で仮処分決定がなされた(甲一一の5)。

(4) 原告は、本件商品について、トイジャーナル(甲一〇の2、4、一一の6)、週刊玩具通信(甲一二の2~4、7、15、20、一三の3、18、22、24)などの業界紙において無彩色で広告宣伝を行うとともに、その他のメディアをも通じて宣伝広告活動を行った。

(5) 右のような原告商品の特異性、原告製品の売れ行き状況、類似品に対する法的措置、宣伝広告活動を通じて、遅くとも昭和五六年三月ころには、「六面体であり、各面が九つのブロックに区分され、各面ごとに他の面と区別可能な外観を呈している」という外観形態を有する回転式立体組合せ玩具は、原告商品として有名なルービックキューブであり、したがって原告の商品を表示するものとして、取引業界及び一般消費者の間で全国的に著名ないし周知になっていたものである。すなわち、原告商品は昭和五五年七月の発売開始以来、わずか八か月あまりの短期間に約一八〇万個を販売したものであり、このような短期間でこれだけ多くの消費者に販売し得たことは、単に原告の登録商標が出所表示機能や顧客吸引力を発揮したからだけではなく、「六面体であり、各面が九つのブロックに区分され、各面ごとに他の面と区別可能な外観を呈している」という原告商品の基本的構成態様が自他商品識別機能を発揮し、顧客吸引力を発揮したからであると考えられる。

したがって、原告商品の形態である「六面体であり、各面が九つのブロックに区分され、各面ごとに他の面と区別可能な外観を呈している」という外観形態は、遅くとも昭和五六年三月末当時において、自他商品識別機能及び出所表示機能を取得し、顧客吸引力を発揮することで、原告の商品を表示するものとして需要者の間で著名ないし周知となっていた。原告が、原告商品を無彩色で宣伝広告活動を行ったことからしても、形態の周知著名性はその具体的構成態様よりも基本的構成態様について獲得されたというべきである。

(6) 原告商品は、前述したように昭和五五年七月の発売開始以来爆発的なヒットとなったが、昭和五六年末ころから次第のそのブームも去り、類似品に対する原告の仮処分申請が各地の裁判所で認められた(甲一一の4、5)こともあって、原告商品の類似品も市場から姿を消した。しかしながら、原告は、爆発的なヒットで、原告商品の形態について市場で獲得し仮処分申請においても認められた周知性を維持すべく、ヒット当時からの形態を変更することなく、その後も原告商品の販売を維持し(甲一四~二二)、テレビコマーシャル等による宣伝広告活動を続け、他方で市場から類似品が姿を消したので、原告商品の基本的構成態様等の持つ出所表示機能はより強固なものとなった。

(7) このように、原告商品が獲得した商品形態の周知性は、現在においてもなお維持されており、原告商品形態を有する商品は原告の商品であると認識されている。すなわち、玩具を取り扱う業者は、原告商品の形態を有するものは原告商品たるルービック・キューブであるとの認識の下で商品を取り扱い、さらに一般消費者もそのように認識している(甲五、六)。すなわち、原告商品形態にハローキティーの図柄を付加したものやスーパーマリオのキャラクターの図柄を付加したもの、BAD BADTZーMARU(サンリオのキャラクター)の図柄を付したもの、ペナントの図柄を付したものなどを販売した取扱業者に対し、原告から不正競争防止法違反を理由とする販売中止申入れをしたところ、右業者らはいずれもこれに応じる旨を回答している(甲七、八)。また、被告商品のうちハ号商品を販売していた玩具取扱業者である株式会社キディランドの原宿店店員においても、ハ号商品の包装容器には「MAGIC CUBE」と記載されているにもかかわらず、ウルトラマンルービックキューブであると認識して販売している(甲九)。また、現在東芝イーエムアイ、ワーナーミュージック・ジャパンにおいて企画されているCDアルバムのジャケットに原告商品のデザインを使用することにつき、両社から使用許諾の申入れがある(甲四九)。

(被告らの主張)

(一) 原告商品の基本的構成態様のように、「六面体であり、その各面が九つのブロックに区分された」形態にすることは、回転式立体組合せ玩具の必須の技術的機能に由来するものであるので、不正競争防止法によって保護されるものに当たらない。そもそも、商品の形態は、その商品が本来具すべき機能を充分発揮させることを目的として選択されるものであり、商品の出所を表示することを第一次的な目的とするものではないのが原則である。本件で問題となっている回転式遊戯具についても同様のことがいえる。すなわち、略三角錐の一面が三角形の形状であれば、必然的に略三角錐の基本形態をなし(乙一六の1、2)、略球形の中の一個の一部分が円の形状であれば、その集合体は略球形の基本形態を構成するように、略立方体の一面の一個が正方形であれば、その集合体である基本形状は必然的に略立方体となる。それゆえ、特許庁は、略立方体の基本形態について、原告商品の略立方体の回転式遊戯具が存在することを前提に、模様及び配色が異なる別の立方体の回転式遊戯具について、意匠登録を認めたのである(乙一二、一五。ただし、乙一二は登録料不納により昭和六一年六月四日登録抹消)。原告は、略立方体の基本形態そのものまで不正競争防止法により保護すべきことを主張するが、これは略立方体の正方形の集合体としての遊戯具としての技術思想又は発想そのものに永久的独占権を与えるものであり、商品形態そのものではなく、商品形態をとらせた技術思想そのものを一種の永久権として、原告一人の特定人に独占させるという結果となり、技術思想を保護する特許法及び実用新案法が権利の存続期間に制限を設けた法意を没却することになって不合理である。

また付言するに、原告商品の基本的構成態様はありふれていて、特別顕著性がない。これは、原告が販売する以前からも含めて、六面体又は各面が略正方形の九ブロックに区分されているという形態を有する同種商品が多数存在すること(乙一~二一)からも明らかである。また、現在でも、原告商品の基本的構成態様と同様の形態を有する回転式立体組合せ玩具は、市場においては原告商品だけでなく、同業他社商品が多数出回っている。

(二) 原告が、現在も周知性を保有しているとの証拠として提出しているものは、全て本件とは全く形態の異なる「スネークキューブ」の宣伝広告である。また、甲二三の1~24(ドラえもんのテレビタイム放送)は、原告商品の宣伝広告ではなく、原告の別商品「マジックスネーク」の宣伝広告である。右「マジックスネーク」と称する回転式遊戯具は、原告商品とは、形態、配色、その他の態様を全く異にする。また、甲二四~二九(クレヨンしんちゃん、ドラえもんの各テレビタイム放送)も、同様に「マジックスネーク」の宣伝広告である。また、甲三〇~三五(花より男子、ドラえもん、クレヨンしんちゃん、夢のクレヨン王国、クレヨンしんちゃんスペシャルの各テレビタイム放送)も、別商品の「マジックスネークキューブ」の宣伝広告である。

(三) 原告は、昭和五五年七月一二日付けの週刊玩具通信(甲一二の1)から広告を始め、昭和五六年一〇月六日まで宣伝広告し(甲一三の24)、同じく業界誌トイジャーナルについても、右期間内に宣伝していたようである(甲一〇、一一)。しかし、原告の現在の略立法体である原告商品については、市場の販売実績及び原告の主力の宣伝広告の対象から外れている結果として、現在も周知性を維持しているとは到底いえない。原告は、原告商品について最近は平成九年七月一日の一回のみ広告しているにすぎない。これは、被告商品販売後であり、本件紛争中の広告である。

2  争点2(原告商品と被告商品との類否及び混同のおそれの有無)について

(原告の主張)

(一) 原告商品と被告商品とは類似し、出所の混同のおそれがある。すなわち、原告商品の形態のうち、「六面体であり、各面が九つのブロックに区分され、各面ごとに他の面と区別可能な外観を呈している」という基本的構成態様が、原告商品の形態上の特徴を最もよく表し、商品形態全体の基調を決定付けており、見る者に対して強い共通感を抱かせるから、類否判断を左右する要部と認めるべきであるところ、原告商品の形態のうちの右の要部が、被告商品の形態と類似し、出所の混同のおそれがあることは明らかである。被告らは、原告商品形態の要部は、各面の六色の配色であると主張するが、原告商品の基本的構成態様は原告商品の必須の技術的機能に由来するものではなく、前述したように原告商品の前記基本的構成態様を要部と認めるべきであって、色の配色のみが要部となるのではない。

被告らは、被告商品にはキャラクターの図柄が付されているので、原告商品の形態とは類似せず、出所の混同のおそれもないと主張する。しかし、キャラクターそれ自体は何ら商品形態全体の基調を特徴づけるものではない上、被告商品で用いられているウルトラマンシリーズのキャラクターは多種多様な商品に用いられている図柄であって、キャラクターを付すること自体通常の商品に用いられている変更の域を出ない微弱な差異というべきである。また、同じキャラクターが複数の会社に使用許諾されることもあり、その場合には商品の区別ができなくなるし、現実にキャラクターは商品の区分を超えて使用許諾されているのであって、キャラクターそれ自体が出所表示機能を営むことはないし、キャラクターが付された商品がキャラクターによって出所表示機能を営むこともない。また、商品の大きさについても、通常の域を出ない変更であって微弱な差異である。なお、キャラクターの有無によって商品の形態が非類似になるのであれば、いかに周知著名な形態であってもキャラクターを付するだけで不正競争行為を潜脱することができる上、不正競争防止法二条一項三号が規定する商品形態模倣行為についてキャラクターを付せばこれを逃れられることになり、商品形態を保護することで不正競争を防止しようとする法の趣旨は没却されてしまう。

このように、原告商品と被告商品とは同種の商品であり、しかもその形態が類似している以上、混同のおそれは十分に存する。前述したように、被告商品のうちハ号商品を販売していた玩具取扱業者である株式会社キディランドの原宿店店員においても、ハ号商品の包装容器には「MAGIC CUBE」と記載されているにもかかわらず、ウルトラマンルービックキューブであると認識して販売している(甲九)のであり、このことは、具体的混同が生じていることを示している。

(二) 被告らは、キャラクターを付することで、パズルの難易性が高くなるので、原告商品と区別されると主張する。しかし、被告会社が販売していた商品に添付されている「解法の手引」(甲五〇、五一)には、色合わせについての詳細な解法の説明がされているだけで、絵柄の向きを加味した解法については何ら具体的な説明がされていない。このことは、被告会社自身、被告商品の主たる面白さが色合わせにあり、購入者が色合わせで遊ぶことを想定しているからにほかならない。

(被告らの主張)

(一) 原告商品の形態のうち、周知商品表示といえる部分は、技術的機能の制約を受ける部分又はありふれた形状である部分を除いた、六面体の各一面ごとの青、黄、赤、橙、白、緑の各配色のみであるにすぎない。他方、被告商品は、テレビ番組、漫画などの著名なキャラクターの図柄を表示しており、右キャラクターの顧客吸引力によって、幼児、小児向けに販売している。原告商品と被告商品とは、デザイン的ないし意匠的にみれば、「目を引く」部分が全く異なる。すなわち、原告は、原告商品の一辺五・六センチメートルの立方体という形状と六面の配色という形態にこだわり続けて販売し続け、他方、被告会社及び同業他社は、原告商品と区別するために、キャラクター若しくは花柄模様を配することで原告との出所の区別化を図ってきた。また、一般消費者から見ても、ウルトラマン(イ号、ヘ号商品)、マリンジャンボ(ロ号商品)、ウルトラマンティガ(ハ号商品)等の各キャラクターが目を引き、被告商品を購入する動機となる。この意味で、一般消費者は、被告商品を原告商品と異なるものとして購入するのであり、被告商品を原告商品とを明確に判別し、出所が異なることを容易に認識することができる。特許庁も、六面体で各面が九つのブロックに区分される立体組合せ玩具につき、各面の模様ないし図柄が変わると、非類似とし、新たな意匠として意匠登録を認めている(乙一二、一五)。

(二) 被告会社は、被告商品を、他の同業者と同様に、売上伝票にキャラクター名を付し、原告商品と区別して販売している。玩具を取り扱う業者の間では、原告商品とキャラクター商品(花模様等を含む)との出所の区別化がなされているのが一般的である。すなわち、玩具取扱業者は、キャラクターによって原告商品とそうでない商品を区別しているので、混同は生じない(乙二四~三四、三六、四七、五二の1~10、五三、五四の1~3、五五、五六、五八、六四)。そして、被告商品も、原告商品との混同を避けるため、ウルトラマン、ウルトラマンティガ、ウルトラマン怪獣等の各キャラクターを付することにより、出所表示を区別している。かつ、被告会社は、各キャラクターの商品が被告会社の商品であることを同業者及び一般顧客に知ってもらうため、各種のパンフレット及びカタログを頒布して、各種キャラクター商品間の出所混同も避けようとしている(乙五七の1、2)。

(三) 加えて、一般消費者が被告商品を購入する動機が原告商品と大きく異なる点に、遊戯方法の相違がある。被告商品に付してあるキャラクターの像は、それぞれ上下を必ずそろえなければならず、一部のキャラクターの像が下向き、または横向きでは完成しない。被告商品には、こうした原告商品にない難しさ、面白さが加わっており、このような難易度の高さが表面に付されたキャラクターと併せて一般消費者の購入動機となり、原告商品と混同しない要因となっている。

3  争点3(本件商標権の侵害の成否)について

(原告の主張)

イ号ないしホ号標章の使用が、本件商標権を侵害することは明らかである。なお、被告らは、ニ号ないしヘ号商品は特許庁の類似商品審査基準によればキーホルダーに当たるものであって、原告商品と商品として類似しないと主張するが、商標権侵害の対象となる商品が「玩具」であるか「キーホルダー」であるかは単なる形式的な分類によるのではなく、当該対象商品が玩具として扱われているか、キーホルダーとして扱われているかという取引の実情をも考慮しなければならないところ、被告会社は、ニ号ないしヘ号商品につき、社団法人日本玩具協会による玩具安全基準に合格したものとして「ST」マークを付し、「キューブ解法の手引き説明書」(甲五一)を同梱し、玩具として用いることを企図しており、玩具と全く異なる流通経路に右商品が置かれるわけでもないから、被告らの主張は失当である。

(被告らの主張)

イ号ないしハ号、ヘ号商品に関する被告標章の使用についてはともかく、ニ号、ホ号、ト号商品に関する被告商標の使用については、被告会社は責任を負わない。すなわち、ニ号、ホ号、ト号商品はキーホルダーであって、特許庁の類似商品審査基準によれば、第一四類に当たるところ、本件商標権の指定商品は、第二四類のおもちゃ等であるから、商品として類似関係にない。

4  争点4(原告による許諾等の有無)について

(被告らの主張)

(一) 被告商品の販売に当たっては、以下の経緯があり、原告からあらかじめ販売について許諾があったから(この点について、原告の提出する甲六九(【E】の陳述書)は、その内容に信用性がない。)、原告の本訴請求は禁反言の原則、取引上の信義則に反し、許されない。

① 被告会社の従業員【F】は、平成六年六月七日、株式会社すかいらーく本社物販部の担当バイヤー部長であった【G】に対し、ウルトラマンのキャラクターが付された回転式立体組合せ玩具(乙二七)の見本品を示し、販売に関する協議をした。

② 【G】は、同年七月ころ、原告営業部所属の従業員【E】に対し、株式会社すかいらーく経営のファミリーレストランチェーンで販売したい旨伝え、米国特許公報の写しと右回転式立体組合せ玩具の見本品を交付した。

③ 【G】は、同年八月ころ、【E】に確認したところ、【E】は、交付していた見本品について「キャラクターを付してあるので、販売に問題はない」と回答した。また【F】は、【G】から【E】を紹介され、直接【E】に連絡をとり、販売してもよいとの承諾を得た。被告会社は、原告の右回答を得た上で、同年九月から、株式会社すかいらーくにおいて、被告商品の販売を開始した。

(二) 原告商品の形態の考案者である【H】氏は、意匠権を登録したものの(乙一二)、その後右意匠権を放棄している(乙四八)。このように、本来の権利者が権利を放棄しているのであるから、その権利の恩恵を事実上受けているにすぎない原告が、本訴における請求をすることは信義則に反する。

(原告の主張)

被告らの右主張は、争う。原告は、被告会社に対し、被告商品の販売に当たって許諾を与えたことはないし、被告会社から、見本品の交付を受けたこともない。

5  争点5(被告【C】の責任)について

(原告の主張)

被告【C】は、被告会社の代表者として、被告商品の販売を企図し、遂行したものであり、その職務を行うにつき悪意又は重大な過失があるから、商法二六六条の三第一項に基づき、責任を負う。

(被告らの主張)

被告【C】が被告会社の代表者であることは認め、その余は否認ないし争う。

6  争点6(損害額)について

(原告の主張)

被告会社が被告商品の販売等により得た純利益の額は五七〇万八四五三円であるから、本件商標権侵害行為によって原告が被った損害の額は五七〇万円を下ることはなく(商標法三八条二項)、不正競争行為によって被った損害の額も五七〇万円を下ることはない(不正競争防止法五条一項)。そうすると、原告が被った損害額は、その合計である一一四〇万円を下らない。

(被告らの主張)

被告会社が被告商品の販売等により得た純利益の額が、五七〇万八四五三円であることは認め、その余は否認ないし争う。被告会社は原告の許諾があって販売したものであり、被告会社の販売行為についての原告の過失割合は少なくとも七割と考えられるので、仮に被告会社の責任が認められる場合であっても、過失相殺がされるべきである。また原告の請求は、商標権侵害によって被った損害の額と不正競争行為によって被った損害の額とを二重に請求しており、その意味でも失当である。

第三当裁判所の判断

一  争点1(原告商品形態の周知商品表示性)について

(一)  不正競争防止法二条一項一号は、「他人の商品等表示」すなわち「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」として需要者の間に広く認識されているものと同一又は類似の商品等表示を使用等する行為を不正競争行為と規定することにより、周知な商品等表示の持つ出所表示機能を保護するものである。

商品の形態は、商品の機能を発揮したり商品の美感を高めたりするために適宜選択されるものであり、本来的には商品の出所を表示する機能を有するものではないが、ある商品の形態が他の商品に比べて顕著な特徴を有し、かつ、それが長期間にわたり特定の者の商品に排他的に使用され、又は短期間であっても強力な宣伝広告等により大量に販売されることにより、その形態が特定の者の商品であることを示す表示であると需要者の間で広く認識されるようになった場合には、商品の形態が右条項により保護されることがあるものと解される。

しかしながら、商品の形態が当該商品の機能ないし効果と必然的に結びつき、これを達成するために他の形態を採用できない場合には、右形態は、不正競争防止法二条一項一号所定の「商品等表示」に該当するものではなく、これについては不正競争防止法による保護は及ばないと解すべきである。けだし、右のような機能ないし効果と必然的に結びつく形態は、本来、発明ないし考案として、特許法等の工業所有権法により一定の期間独占的地位を保障されることを通じて保護されるべきものであるところ、仮にこのような形態について不正競争防止法上の保護を与えるならば、本来、工業所有権法上の所定の期間の経過後は広く社会全体の公有財産に帰属するものとして万人が自由に利用できることになるはずの技術について、特定の者が独占的に支配することを認めることとなり、公共の利益に反するからである。すなわち、仮に、機能ないし効果と必然的に結びつく形態を不正競争防止法による保護の対象とするならば、不正競争防止法二条一項一号が本来的な商品表示として定める「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装」のように、商品そのものではない別の媒体に出所識別機能を委ねる場合とは異なって、同法条が目的とする出所の混同の防止を超えて、当該商品に利用されている技術思想そのものについて、特許法等の工業所有権法上の保護を超えた独占的、排他的支配を認めることとなり、技術の自由な利用によりもたらされる産業の発展や商品の自由な流通を阻害する結果となる。

(二)  これを本件についてみるに、前記争いのない事実、証拠(甲五、六、一〇の1及び2、一一の4、一二の1~5、一三の9、一五~二二)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 原告は、玩具の製造・販売等を業とする株式会社であるが、昭和五五年七月二五日ころ我が国において回転式立体組合せ玩具である原告商品(商品名「ルービック・キューブ」)の販売を開始した。

(2) 原告商品の形態は、別紙物件目録(一)記載のとおりである。すなわち、原告商品は、一辺約五・六センチメートルの正六面体で、各面が九個のブロックに区分され、各ブロックは表面が色付けされており、それぞれ左右、前後に三六〇度回転可能であり、基本状態では各面がそれぞれ赤、青、黄、白、緑、橙の各色にそろえられており、適宜回転させて各面の配色をいったん崩した後再び各面を同一色でそろえるなどして遊ぶパズル玩具であって、その配色の組合せは三〇億を超え、数学的な解き方を発見する楽しみがあるパズルである。

(3) 原告商品は、もともとハンガリーの【H】によって考案されたものであり、ヨーロッパやアメリカで流行しブームとなった。原告は、これを日本に導入して販売することを企図し、すでにアメリカにおいてルービック・キューブを販売していた同国のアイデアール・トーイ社との間で同社が香港で製造したルービック・キューブを原告が同社から購入して、日本国内で独占的に販売する旨の輸入販売契約を締結した。

(4) 原告は、ルービック・キューブの発売開始に先立ち、昭和五五年六月上旬東京晴海で開かれた国際玩具見本市に自社の商品としてルービック・キューブを出品し、同年七月下旬から右商品を販売することを発表し、そのことは業界紙で報じられ、業界の注目を集めた。原告商品は、発売開始と同時に大人から子供まで広く人気を集めて爆発的な売れ行きを示し、同年三月ころまでには約一八〇万個が販売された。原告は、右発売に際し、ポスターを取扱業者に配ったり、雑誌などに広告を掲載するとともに、店頭で原告商品を実際に手にして触れられる「二分間チャレンジ」という企画を行い、またこのパズルを解いた者には認定証を交付することとするなど販売意欲をそそる宣伝を積極的に行った。また、原告商品が爆発的なブームになっていることは、そのパズルゲームとしての難しさ、面白さとともに、新聞、週刊誌などの紹介記事でたびたび報じられ、これらの記事においては、原告商品の写真とともに輸入発売元である原告の名称も記載されていた。このようにして、遅くとも、昭和五六年三月ころまでには、原告商品は、ハンガリー人の【H】の考案にかかる世界的なブームを呼んでいるパズル玩具であって、我が国では原告が輸入販売元となって販売していること、その商品本体が前記のような形態をしていることは、玩具業者のみならず一般消費者の間にも広く認識されるに至った。

(三)(1)  右認定事実によれば、昭和五六年三月ころまでには、原告商品は、原告の販売する商品として日本全国において広く認識されるに至ったものと認められる。

前述のとおり、商品の機能ないし効果に必然的に由来する形態は不正競争防止法二条一項一号所定の「商品等表示」に該当しないと解されるところ、原告商品の基本的構成態様、すなわち「六面体であってその各面が九つのブロックに区分され、各面ごとに他の面と区別可能な外観を呈している」という商品形態は、六面体の各面を九つのブロックに区分し、各ブロックを適宜回転させて各面の配色をいったん崩した後再び各面を同一色でそろえるなどして遊ぶパズル玩具であるという原告商品の有する機能ないし効果と必然的に結びついていると認められるから(現に、六面体であり、各面が九つのブロックに区分された外観を有する回転式立体組合せ玩具について特許出願(特開昭五三ー四六八三三号)がされている(乙三)ほか、他の様々な形態の回転式組合せ立体玩具についても、我が国及び欧米各国において特許出願がされている(乙一、二、四~一一)ことが認められる。)、右基本的構成態様は不正競争防止法による保護の対象となるものではない。したがって、原告商品の形態のうち、その機能ないし効果に必然的に結びついたと評価される右基本的構成態様については、不正競争防止法二条一項一号所定の「商品等表示」として認められる範囲から除かれると解するのが相当である。

そうすると、原告商品の有する形態のうち、その機能ないし効果と必然的に結びついている部分である右基本的構成態様を除く形態については、原告の販売する商品であることを示す商品等表示として広く認識されるに至ったということができる。すなわち、原告商品の色彩、形状の大きさ、素材等は、原告商品の有する機能ないし効果に由来するものではないといい得るので、原告の販売する商品であることを示す商品等表示として周知性を獲得したということができる。

(2)  原告は、原告商品の形態のうち、右基本的構成態様についても、原告の商品等表示として周知であり、原告商品の色彩、形状の大きさ等と同様に、技術的機能に由来するものではないと主張し、その主張の根拠として、回転式立体組合せ玩具の中でも、六面体以外の形状を有する玩具や、六面体の形状を有するがその各面が九つ以外の数のブロックに区分されている玩具が存するとして、この点に関する証拠(甲一一の3~5、乙二、四~七、一四)を提出する。しかし、原告の主張する右六面体以外の形状を有する玩具及び六面体の形状を有するがその各面が九つ以外の数のブロックに区分されている玩具は、いずれも、回転式立体組合せ玩具という同一の範疇に属するとはいえ、原告商品とは別個の構造の玩具というべきであり、そうした別個の種類の商品が存在することをもって、原告商品の右基本的構成態様が原告商品の機能ないし効果と必然的に結びついているという認定を妨げることはできない。原告の主張は、採用できない。

二  争点2(原告商品と被告商品との類否及び混同のおそれの有無)について

前判示のとおり、原告商品の形態のうち基本的構成態様の部分については不正競争防止法二条一項一号所定の「商品等表示」たり得ないところ、仮に、原告商品の形態のうち右基本的構成態様の部分を除いた形態について獲得された周知性が現在も維持されているとしても、原告商品の形態のうち右基本的構成態様を除いた具体的構成態様について被告商品と対比すれば、被告商品は、その表面にキャラクターが付されていたり(イ号ないしハ号、ホ号ないしト号商品)、各面の配色が異なっていたり(ニ号商品)、六面体の一辺の長さが異なったりしており(ニ号、ホ号、ト号商品)、表面の模様、色彩、形状の大きさ等の点において原告商品と類似するものではないことが明らかである(原告は、被告商品は原告商品と類似すると主張するが、原告の主張は、原告商品の有する基本的構成態様についても周知商品表示に当たることを前提とした主張であるから、その前提を欠き、失当であるというほかはない。)。

そうすると、原告商品の形態のうち基本的構成態様の部分を除いた形態について、獲得された周知性がなお現在も維持されているか否かを判断するまでもなく、原告の不正競争防止法に基づく差止請求及び損害賠償請求はいずれも理由がないというべきである。

三  争点3(本件商標権の侵害の成否)について

本件登録商標と被告標章が類似することは、当事者間に争いがない。

被告らは、ニ号、ホ号、ト号各商品はキーホルダーであって、特許庁の類似商品審査基準によれば第一四類に当たるところ、本件商標権の指定商品は第二四類のおもちゃ等であるから、商品として類似関係にないと主張する。しかしながら、商品の類否は、特許庁の審査基準における区分を参酌しつつも、本来的には、商標の付された具体的な商品の品質・形状・用途・取引の状態等から観察し、取引上の通念によって出所の混同が生じるか否かにより判断されるべきであるところ、前記争いのない事実及び証拠(甲五一)によれば、被告商品の形状は、六面体であって一辺が約三・〇センチメートルの大きさのある立方体であり、「ミニキューブ解法の手引き」と題する文書が添付されていることが認められ、これらよりすれば、ニ号、ホ号、ト号各商品は、色合わせを楽しむことができるやや小さめの回転式立体組合せ玩具を単にキーホルダー形式としたものであることが明らかであって、取引上キーホルダー形式の回転式立体組合せ玩具が他の回転式立体式組合せ玩具と全く区別して取り扱われていることを認めるに足りる証拠もない。右によれば、ニ号、ホ号、ト号各商品は、いずれも回転式立体式組合せ玩具というに妨げないというべきであって、本件登録商標の指定商品である「おもちゃ」に属するか、少なくとも類似する商品というべきである。被告らの主張は、採用できない。

被告らは、被告会社においては被告標章を現在使用していないと主張するが、被告会社による右標章の使用が全面的に中止されたことを認めるに足りる証拠はなく、また、被告会社が販売先小売店や消費者に対して右標章の使用を取りやめたことを通知したなどの事実の主張立証もされていないから、原告が被告会社に対して被告標章の使用の差止めを求める利益は失われていないというべきである。

四  争点4(原告による許諾等の有無)について

被告らは、被告商品の販売に当たって、原告から許諾があり、原告の商標権侵害に基づく請求は禁反言の原則、取引上の信義則に反する行為であると主張し、証拠(乙四九の1及び2、五九~六一、六五、七三)中にはこれに沿う部分がある。しかしながら、右各証拠をもっても、ウルトラマンのキャラクターが入った被告商品の形態についてはともかく、被告会社が販売開始に当たり、本件登録商標について原告から具体的に使用許諾等を受けていたと認めることはできず、甲六九(【E】の陳述書)に照らしても、被告らの主張は、採用できない。また被告らは、原告商品の意匠権者が権利を放棄しているから、原告が本訴における請求をすることは信義則に反すると主張するが、被告らの主張する右事情は、原告が本件商標権に基づく請求をすることの妨げになるものではない。

したがって、被告会社が被告標章を被告商品に付して使用する行為は、本件商標権を侵害するものと認められるから、本件商標権に基づき被告に対し被告標章の使用の差止めを求める請求は、理由がある。

五  争点5(被告【C】の責任)について

被告【C】が被告会社の代表取締役として被告標章を付した被告商品の販売に関わった行為は、前判示のとおり、本件商標権の侵害に結びつく行為ではあったが、不正競争行為に該当するものではないところ、本件では、被告【C】が本件登録商標の存在を知りながらあえて被告標章を被告商品に付して販売したとは証拠上認められず、他に被告【C】において取締役の職務の遂行につき悪意・重過失があったと認めるに足りる事情も窺われないから、原告の主張は採用できない。

六  争点6(損害額)について

(一)  被告会社が被告商品の販売等によって得た純利益の額が、五七〇万八四五三円であることは、当事者間に争いがない。商標法三八条二項によれば、被告会社による本件商標権の侵害によって原告の被った損害額は、五七〇万円を下らないと認められる。

(二)  被告らは、被告会社は原告の許諾があって販売したものであり、被告会社の販売行為についての原告の過失割合は少なくとも七割と考えられるとして、過失相殺を主張する。しかし、前述したように、本件商標権について原告から具体的に使用許諾等を受けていたと認めることはできない以上、被告らの主張はその前提を欠き、失当である。

(三)  右によれば、原告の被告会社に対する損害賠償請求は、本件商標権侵害を理由として五七〇万円の支払を求める限度で理由がある。

七  結論

以上によれば、原告の被告会社に対する請求は、本件商標権侵害に基づく請求である主文第一項及び第二項記載の限度で理由があり、原告の被告【C】に対する請求は、理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三村量一 裁判官 和久田道雄 裁判官 田中孝一)

<以下省略>

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